世界で一番推しが好き!

たのしいおたくのせいかつ

マーキュリー・ファー Mercury Fur

(明確なストーリーのネタバレはしてませんが、結末や展開が分かるようなことは書いてあるので配信等を観る予定のある方は読まないほうが良いと思います) 

 

北村さんの初舞台なので観に行きたい気持ちはあれど、チケットがめちゃめちゃめちゃめちゃ大激戦だったので推してはいない私が戦ってもな……と諦めてしまっていたんですけど、有難くもお知り合いに声をかけて頂いて観に行くことが出来ました。本当にありがとうございます。感謝しかない。

 

兵庫県立芸術文化センター、昔何度か行ったことあるはずなんだけど記憶より大きい劇場だったな。駅近でロビーも広くて音もいいし結構サイドだったけど全然気にならない眺め(上手の出っ張ったところにあると思われる本棚が見えなかったくらい)だったので全くストレスなく没頭できて良かったです。

 

 

初演も再演も一切情報は入れないように、メディアのレポートも読まないようにして観に行きました。そのほうがいいよって言われてたので。初演を観に行った知り合いから後ろの立ち見の人がクライマックスで卒倒して自分の目の前に落ちてきたって話を聴いてヒエ……ってなってそういう作品だって心構えだけはしていったのでその点に関しては大丈夫だったけど、確かになんの心構えもなく見たら卒倒してもおかしくないな……と思いました。耐性がないとこれはキツい。

 

どこの国なのかもわからない、いつの時代で、今がどういう状況なのかすら分からない状態で、登場人物の会話から少しずつピースを拾って当てはめていくようなストーリーなので、雑談のように聴こえる会話ひとつひとつにも観ている側もすごく緊張感を強いられる。何が起こるのか、何が起ころうとしているのか、何が脅威で何が例え話で何が冗談で何が本当のことなのかわからない状況のまま進んでいって、もうずっと観ている側もエリオットのように神経を張り巡らせてピリピリしている感じ。理解をしたところで、できたところで緊張感は恐怖とか絶望にしか変わらないから終演後の疲労感というか、緊張感からくる脱力感がものすごくてしばらくぼーっとして何も考えられなかった。

 

北村さんだったかな、これは愛の物語だってどこかでコメントしていて、確かにその通りだなと思った。エリオットも、ダレンも、スピンクスも、愛のために戦っていた。もうどうしようもなくて、すべてがどん詰まりの状態で、彼らがそれでも何があっても這いずり回ってでもどんなことをしてでも生きようとしているのは家族や愛する人を守るためだった。最初は誰もがピリピリしていてひたすらなんでこの人たち永遠にキレてんのかな…ってなったけど、生きていくためにそのひとつひとつが決死ともいえるような状況だったから当たり前だった。

序盤でエリオットとダレンが「ものすごく愛してる」と言葉で確かめ合うシーンがあって、最初はそれに続く言葉が「だからお前を殴る」とか「だからお前を殺す」とか物騒な言葉ばかりだったから、それは2人が子供の頃から繰り返していたごっこ遊びの延長のようなもの、薬物中毒で子供の頃の記憶から抜け出せないダレンにエリオットが付き合ってのことだと思っていたんだけど、そうじゃないことが全ての伏線だったな。

エリオットは愛しているからダレンとローラのことは俺が殺すと言ったし、エリオットとダレンの父親が母親と2人を殺そうとしたのも、多分そうだった。そして、エリオットがダレンを殺したことも。ラストシーンはどうなったのかは曖昧になってたけど、殺すことが深い愛の証明である話であるなら、私はエリオットのダレンに対する愛も同じようにそうであってほしいなと思った。

生きることをどこまでも追い詰められて追い詰められて、どうしようもなくなって、そうしたらもう愛しているからこそ殺すという選択肢しかなくなってしまうこと、深く愛すれば愛するほど殺すこと以上相手に愛情を注ぐ方法がなくなってしまうことは、本当に悲しい。どれだけ這いずり回っても、どれだけ手を汚しても、どれだけ傷ついても、大きくて強い力は容赦がなくどこまでも弱いものを追い詰めて、追い詰めて、絶望させてくる。怖かったけど、同じくらい悲しかった。

バタフライを降らせ、突然街に爆撃をする人たちが、その下にエリオットのような人たちがどれだけの絶望を抱くかなんて想像もつかない。戦争ってそういうものだよなって今の時世と重なるものが多くて、全然知らない国の人たちにもエリオットたちのような人が間違いなくいるんだろうと思いを馳せてしまった。同時に彼らにはひとかけらすら救いがないことをこれでもかと思い知らされているようだったから、この物語で起こることやその結末に対して美しいとは決して言えないなと思った。

 

それでもやっぱりエリオットとダレンの愛は絶望の中でも美しいという表現が一番しっくりくるのかな……本当にこのタイミングのこの2人で観れてよかったな~~~となった。北村さんは言わずもがなだけど、吉沢さんも去年1年大河ドラマでずっとお芝居を観ていた人だったから舞台でのお芝居も観られてうれしかったな。何度も共演している2人だからかどうかはわからないけど、心の距離感がすごく絶妙ですごく良かった。

序盤はどれだけダレンに手を焼いてても手放すことができないエリオットとドラッグ漬けで頼りなくてエリオットに守られているダレン、という感じだったのがラストで絶望してひとつも動けなくなったエリオットにダレンが必死で「俺がなんとかするから!」と叫んでエリオットを守ろうとしていたことが一番泣いた。「ものすごく愛してる、なぁ言えよ!」って序盤の「ものすごく愛してる」のやりとりをエリオットにもう一度させようとしたことも、ダレンにとっては自分の存在を認識させてエリオットを落ち着かせたい一心だったのかもしれないけれど、私は逆にその言葉がエリオットにダレンを殺す選択をさせてしまったんじゃないかなと思った。泣いたといってもその場では全然涙が出なくて、終わってしばらく何も考えられなくてやっと頭が回りだした頃に突然涙がボロボロこぼれてきたんだけど、その時に一番頭から離れなかったのがこのラストシーンだった。北村さんってテレビとかだとすごく大人しくて物静かでボソボソっとしゃべるイメージが強いけど、声張ると思ってた以上に声が高くて声量もあるからめちゃくちゃ良く通る。ダレンは割とずっと声が高めで幼げな言動ともあわさってすごく可愛いなと思ってたけど、ラストシーンの飛行機や爆撃の音、部屋が燃える音の中でもガツンと響くあの声が本当に際立っていてすごく印象的だった。あと「ド、レ、ミ~」とかきらきらひかる歌う時いちいち歌うめえな…って思ってしまった。集中してほしい、私。吉沢さんもすごく声と吐き出す言葉に力のある人だからエリオットの苛立ちや焦りが緊張感になってビリビリ伝わってきたし、N列からの距離なのにテレビで見てるみたいにすごく表情が力強く伝わってくるから不思議だった。

あとローラが出てきて男の人だ?ってなったけどそれを忘れるくらいすごく上手くて誰だったんだろって後から調べたら宮崎秋人さんでビビった。宮崎秋人さんは舞台で観るたびに度肝を抜かれて帰ってきてるので今回もまた抜かれてしまったわね……。声も体格も男性なのに、すらっと背が高くてちょっとしたしぐさも上品な女性にしか見えないんだよな……本当にすごい。ローラは多分世が世ならきっとひとりでもちゃんと生きていける強さを感じる女性だったけど、戦争の話なのでローラたち女性は愛される側、守られる側にしかなり得なかったのも無力感がすごかったな。

スピンクスはそれこそ姫や妹のローラだけじゃなくてエリオットやダレンたちも守っていたわけだけど、加治くんの貫禄と安心感っていうのかな…登場したときは威圧的で粗暴でなんだこいつって感じだったけど、スピンクスも同じように皆を守ることに必死だっただけでその優しさに納得できるだけの包容力みたいなのがないとスピンクスって存在は成り立たないと思ったし、だから最終的にはすごくスピンクス…イイヤツじゃん………ってなった。スピンクスは結局実はやってたこと全部エリオットたちも含めた家族に対する愛だったからホントに心憎い。

ナズは最初出てきたときなんじゃコイツ距離梨か?ってなったし、エリオットが目に見えてナズにイライラしてるのが分かってああ…ってなってしまったのであんまり好きになれなかったんだけど、あっという間に皆の中に入り込んで、みんなが手を焼いてる姫ですら誰よりも上手く相手もできて、すごく魅力的な子だった。ていうかナズも小日向星一さんだって知らなくて、あの可愛いショタ役はどなただったんだろ…って調べてひっくり返ったわ。びっくりした。高い声が幼げで可愛らしくて、だからこそプレゼントにされてしまったあとの叫びが本当に耳を塞ぎたくなるほど悲痛ですごかった。プレゼントとしてナズが死ぬことがなかったことだけが唯一この物語で心から良かったって思えたことかな……その後無事に生きられたかどうかも分からないけど、それでもナズが話してくれたの妹の最期のことを思うと同じ目にあって死ぬことがなくてよかったとは思った。私もナズが好きになっている……。

 

登場人物ひとりひとりがすごく魅力的でそれを語るお芝居が本当に全員ずっしりとした重みを持っていたから、状況説明が何一つないまま場面転換もないまま会話だけで物語が進んでも、言葉ひとつひとつが耳に残って頭に入ってくる感覚がすごかった。情報量がものすごくて先にも書いた通り一瞬だって気を緩めることができないヒリヒリした緊張感と観ている側も戦いながら観る必要があるのだけど、だからこそこの物語の持つ切迫した状況や絶望感がより強く伝わってくるのかなと思った。

いやホントめっちゃ疲れたな……というのが正直なところ。いつもなら終わったらあとは感想や考察が止まらなくてツイッターやらメモ帳やらに書き綴らずにいられなくなるけど、マーキュリーファーは終演後本当に何も言葉が浮かばなかったし何も考えられなかった。ただ自分が観たものがリフレインして言葉にならない感情が揺れる感じが寝る前まで続いてた感覚。とかいいつつここまで3800字くらいらしい。長。

 

 

ちょっと話違うけど、皿さんの10周年ライブがテレビでやってて観たんですけど、やっぱりテレビで見てしまうと会場で観たものと同じものなのに全然こっちに伝わってくるものが違うなと思って、なんかもっとでっかくて圧倒的で包まれるような感覚があったのに画面越しになるだけでこれだけ違うんだなと思ったから、まぁそれは舞台をDVDで観た時も同じなんですけど、やっぱり舞台もライブも生で観てその場の空気を感じて、包まれて、同じ感覚を共有するからこそ楽しむエンターテイメントなんだなと思いました。

今回劇場で観られなくても配信で観るつもりだったけど、本当に劇場で観ることができてよかったな。声かけてくれたお友達、本当にありがとうございました。内容的には良かった、と形容して良いのかはわからないけど、本当に完成度がとても高くて素晴らしい作品を観ることができたなと思います。